銀行の損益計算書は何が違う?|決算書から収益構造と収益力を読み解く

決算書の基礎

損益計算書は、一定期間に企業がどれだけ収益を上げ、どれだけ費用を使い、最終的にどれだけ利益を残したのかを示す財務諸表です。

しかし、銀行の損益計算書を見ると、一般企業でよく見る「売上高」や「売上原価」「営業利益」といった項目が見当たりません。

その代わりに、

  • 資金運用収益
  • 役務取引等収益
  • 特定取引収益
  • 業務粗利益
  • 業務純益

など、銀行特有の項目が並んでいます。

これは、銀行のビジネスモデルが製造業や小売業などの一般企業とは大きく異なるためです。

この記事では、

  • 銀行の損益計算書が一般企業と異なる理由
  • 経常収益・経常費用の中身
  • 業務粗利益や業務純益とは何か
  • 利ざや・ROA・ROEから銀行の収益力を分析する方法

について、決算書の視点から分かりやすく解説します。

結論|銀行の損益計算書は「お金をどう稼いだか」を見る

先に結論からいうと、銀行の損益計算書は、預金などで集めた資金を運用したり、金融サービスを提供したりすることで、どのように収益を生み出しているのかを見るための財務諸表です。

一般企業では、商品やサービスを販売した売上高から売上原価や販管費などを差し引いて利益を計算します。

一方、銀行では、

  • お金を貸して利息を得る
  • 決済や振込などのサービスで手数料を得る
  • 有価証券などの金融取引で収益を得る

といった方法で収益を生み出します。

そのため、損益計算書の表示方法も一般企業とは大きく異なります。

銀行の損益計算書は「経常損益」と「特別損益」に分かれる

銀行の損益計算書の大きな特徴は、一般企業の損益計算書にある「売上高」「営業利益」といった区分ではなく、「経常収益」「経常費用」を中心に表示されていることです。

一般企業の損益計算書では、

売上高 → 売上総利益 → 営業利益 → 経常利益 → 税引前利益

という流れで利益を計算するのが一般的です。

一方、銀行では「営業利益」という区分はありません。

銀行の場合は、

経常収益 − 経常費用 = 経常利益

という形で、通常の銀行業務から生じる損益を把握します。

その後、特別損益などを加減して、最終的な当期純利益へとつながります。

銀行の損益計算書は以下のような形式となっています。

経常収益とは

経常収益とは、銀行の通常の事業活動から生じる収益です。

大きく次の5つに分けられます。

  1. 資金運用収益
  2. 役務取引等収益
  3. 特定取引収益
  4. その他業務収益
  5. その他経常収益

このように項目が分かれていることで、どういった取引で利益を得ているのかが見えるようになっています。

経常収益の5つの項目

それでは、経常収益の5項目について、それぞれの内容を見ていきましょう。

資金運用収益

銀行にとって最も重要な収益の一つです。

貸出金や有価証券などを運用することで得られる利息・配当などが含まれます。

例えば、

  • 企業への融資
  • 住宅ローン
  • 国債などの債券
  • その他の有価証券

などから収益を得ています。

銀行が「お金を貸して利息を得る」という基本的なビジネスから生み出す収益です。

役務取引等収益

金融サービスを提供することで得られる手数料収入です。

例えば、

  • 振込手数料
  • ATM関連手数料
  • 為替手数料
  • 投資信託の販売手数料
  • 信託・証券関連の手数料

などがあります。

銀行にとって、利息以外の収益源として重要な項目です。

特定取引収益

銀行がトレーディングなどの特定取引によって得る収益です。

市場価格の変動などを利用した金融取引から生じる収益が含まれます。

前回の記事で解説した「特定取引資産」とも関連する項目です。

その他業務収益

銀行の本業に関連する業務のうち、資金運用や役務取引、特定取引以外から生じる収益です。

代表的なものとして、

  • 投資目的の国債などの売買
  • 金融派生商品取引

などに関連する収益があります。

その他経常収益

上記4つに含まれない通常の事業活動から生じる収益です。

例えば、

  • 株式などの売却益
  • 貸倒引当金戻入益

などが含まれることがあります。

経常費用は何に使われているのか

経常収益に対応する形で、経常費用も大きく6つに分けられます。

  1. 資金調達費用
  2. 役務取引等費用
  3. 特定取引費用
  4. その他業務費用
  5. 営業経費
  6. その他経常費用

資金調達費用

預金者などに支払う利息や、銀行が資金を調達するために負担する費用です。

銀行にとっては、一般企業の「仕入原価」に近い重要な費用と考えることができます。

例えば、預金者への預金利息などが代表例です。

銀行は、預金などで集めた資金を貸し出して利息を得る一方、預金者には利息を支払います。

この受け取る利息と支払う利息の差が、銀行の収益力を考えるうえで非常に重要になります。

役務取引等費用

金融サービスを提供するために外部へ支払う手数料などです。

特定取引費用

特定取引に関連して発生する費用です。

その他業務費用

その他の業務に関連して発生する費用です。

営業経費

一般企業の販売費及び一般管理費に近い費用です。

銀行員の人件費、店舗の賃借料、システム関連費用など、銀行を運営するためのさまざまな費用が含まれます。

その他経常費用

上記に含まれない通常の事業活動に関連する費用です。

貸倒引当金繰入額などもここに含まれます。

特別損益は一般企業と同じ考え方

銀行にも、通常の事業活動とは別に、臨時的に発生する損益があります。

これが特別損益です。

例えば、

  • 固定資産の売却益・売却損
  • 固定資産の減損損失

など、通常の銀行業務とは区別して考えるべき損益が計上されます。

この点は、一般企業の損益計算書と基本的な考え方は同じです。

銀行の本業の収益力を見る「業務粗利益」

銀行の収益力を分析するうえで重要なのが、業務粗利益です。

業務粗利益は、

  資金運用収支
+ 役務取引等収支
+ 特定取引収支
+ その他業務収支

によって構成されます。

一般企業の売上総利益(粗利)に近い指標と考えると理解しやすいでしょう。

銀行が本来の業務によって、どれだけ収益を生み出しているのかを見るための重要な指標です。

業務純益・実質業務純益とは

業務粗利益から、銀行を運営するための営業経費などを差し引いて、本業からどれだけ利益を生み出しているのかを見る指標が業務純益です。

ここで注意したいのが、実質業務純益と業務純益は少し違うことです。

実質業務純益は、業務粗利益から営業経費などを差し引いたものです。

そして、そこから一般貸倒引当金繰入額を差し引いたものが業務純益です。

イメージすると、

業務粗利益
↓ 営業経費などを控除
実質業務純益
↓ 一般貸倒引当金繰入額を控除
業務純益

という関係になります。

業務純益は、銀行が本来の業務活動からどれだけ利益を生み出しているのかを見るうえで重要な指標です。

銀行の収益力を見る「利ざや」

銀行を分析するうえで、もう一つ重要なのが利ざやです。

銀行は、預金などによって低い金利で資金を調達し、その資金を企業や個人などに貸し出して、より高い金利を受け取ることで収益を得ています。

例えば、

  • 貸出金利:2%
  • 預金金利:0.5%

であれば、その差は1.5%です。

このような貸出金利と預金金利の差を預貸金利ざやといいます。

また、銀行の資金運用全体と資金調達全体を考慮した「総資金利ざや」という指標もあります。

利ざやが拡大すれば、同じ金額の資金を運用していても収益を生み出しやすくなります。

そのため、

  • 金利環境
  • 貸出金利
  • 預金金利
  • 貸出金残高
  • 預金残高

などと合わせて利ざやを見ることが重要です。

ROA・ROEで銀行の収益性を確認する

銀行の収益性を分析する際には、一般企業と同じようにROAとROEも利用できます。

ROA

ROAは、総資産に対してどれだけ利益を生み出したかを見る指標です。

ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100

銀行は一般企業と比べて総資産が非常に大きくなるため、ROAは銀行の資産をどれだけ効率的に利益へ結びつけているかを見る指標として活用できます。

ROE

ROEは、株主に帰属する自己資本を使って、どれだけ利益を生み出したかを見る指標です。

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

ROAやROEを見る際には、一般企業と比較するのではなく、同じ銀行業界の企業同士で比較することが重要です。

また、同じ銀行でも規模や地域、ビジネスモデルによって収益構造が異なるため、同業他社との比較に加えて、過去からの推移を見ることも重要です。

ROA、ROEについては、それぞれこちらの記事で解説しています
ROA(総資産利益率)とは?|意味・計算式・目安をわかりやすく解説
ROE(自己資本利益率)とは?|企業の「資本効率」を読み解く重要指標

銀行の損益計算書をどう読むか

ここまで見てきたように、銀行の損益計算書には一般企業とは異なる項目が並んでいます。

しかし、基本的な考え方はそれほど難しくありません。

ポイントは、

「銀行は何によって収益を得て、どのような費用を負担しているのか」

を見ることです。

例えば、

  • 資金運用収益は増えているか
  • 資金調達費用はどの程度増えているか
  • 役務取引等収益は伸びているか
  • 業務粗利益は増えているか
  • 業務純益は改善しているか
  • 利ざやは拡大しているか
  • ROA・ROEはどのように変化しているか

などを確認すると、銀行の収益構造が見えてきます。

特に、収益が増えているだけでなく、どの収益が増えているのかを見ることが重要です。

まとめ|銀行の損益計算書は「稼ぎ方」に注目する

今回のポイントをまとめると次のとおりです。

  • 銀行の損益計算書は一般企業とは表示方法が異なる
  • 経常収益は5つの項目に分けて表示される
  • 経常費用は対応する5つの費用と営業経費に分けられる
  • 業務粗利益は銀行の本業の収益力を見る重要な指標
  • 業務純益は本来の業務活動から生み出した利益を見る指標
  • 利ざやは銀行の収益力を左右する重要な要素
  • ROAやROEも銀行の収益性を分析する際に活用できる
  • 指標を見るときは同業他社との比較や時系列での変化が重要

銀行の損益計算書は、一般企業とは異なる勘定科目が多いため、最初は難しく感じるかもしれません。

しかし、「預かったお金を運用して利息を得る」「金融サービスを提供して手数料を得る」という銀行のビジネスモデルを理解すると、それぞれの項目が何を意味しているのか分かりやすくなります。

前回の記事で解説した貸借対照表と合わせて損益計算書を見ることで、銀行が「どれだけの資金を集め、それをどのように運用し、どれだけ利益を生み出しているのか」をより深く読み解けるようになります。

銀行の貸借対照表についてはこちらの記事で解説しています
銀行の決算書は何が違う?|一般企業との違いを貸借対照表から解説

※本記事は企業分析の考え方を一般的に解説するものであり、特定企業への投資判断や取引を推奨するものではありません。実際の判断にあたっては、必ず最新の公式資料をご確認ください。

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