企業の収益性を分析するとき、
- 売上高に対してどれだけ利益を上げているか
- 自己資本を使ってどれだけ利益を生み出しているか
といった視点があります。
しかし、企業が事業を行うためには、株主からの出資だけでなく、銀行からの借入金なども含めた資金を使っています。
では、「企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけの利益を生み出しているのか」は、どのように測ればよいのでしょうか。
この「投下した資本に対して、どれだけのリターンを生み出したのか」を見る代表的な指標が、ROIC(投下資本利益率)です。
この記事では、
- ROICとは何か
- ROICの計算方法
- ROEとの違い
- ROICが高い企業・低い企業の見方
- ROICとWACCの関係
について、分かりやすく解説します。
結論|ROICとは「投下した資本からどれだけ利益を生み出したか」を示す指標
先に結論からいうと、ROIC(Return on Invested Capital)とは、企業が事業活動のために投下した資本に対して、どれだけの利益を生み出したのかを示す指標です。
ここでいう投下した資本というのは、自己資本だけでなく、借入や社債などで資金調達した資金も含めたトータルの資本を指します。
これは、企業の利益は、自己の出資金や、蓄積された利益だけでなく、有利子負債も活用し、事業活動を行うことによって生み出されているという考え方に基づくものです。
なぜROICを見るのか
企業の収益性を見るとき、単純に「利益が大きいか」だけでは、その企業が資本を効率よく使っているかどうかまでは分かりません。
例えば、
- A社:100億円の資本で10億円の利益
- B社:1,000億円の資本で20億円の利益
という2社を考えてみましょう。
利益だけを見ると、B社のほうが20億円と大きくなっています。
しかし、投下した資本に対してどれだけ利益を生み出しているかを見ると、
A社:10億円÷100億円=10%
B社:20億円÷1,000億円=2%
となります。
このように、利益の絶対額だけではなく、投下した資本に対してどれだけのリターンを生み出したかを見ることが重要です。
ROICは、こうした「資本効率」を見るための指標です。
ROICの計算方法
ROICの計算方法にはいくつかの考え方がありますが、この記事では、企業が事業活動のために調達した資金に対するリターンを見るという考え方から、以下の計算式を用います。
ROIC(%)=税引後営業利益 ÷(有利子負債+自己資本)×100
※実際の企業分析では、投下資本をどのように定義するかによって計算方法が異なる場合があります。
例えば、
- 税引後営業利益:7億円
- 有利子負債:40億円
- 自己資本:60億円
という企業の場合、
ROICは、7億円÷(40億円+60億円)×100=7%
となります。
つまり、この企業は、事業活動に投下した100億円の資本に対して、7%のリターンを生み出していると考えることができます。
税引後営業利益とは
ROICの分子には、税引後営業利益を使います。
税引後営業利益は、
税引後営業利益 = 営業利益 ×(1-実効税率)
で計算します。
例えば、
- 営業利益:10億円
- 実効税率:30%
の場合、税引後営業利益は、10億円×(1-30%)=7億円となります。
なぜROICでは「税引後営業利益」を使うのか
ここはROICを理解するうえで重要なポイントです。
営業利益は、企業の本業によってどれだけ利益を生み出しているのかを表します。
一方、税金を支払う必要があるため、営業利益のすべてが企業に残るわけではありません。
そこで、営業利益から税金相当額を差し引き、
「本業によって生み出した利益から税金を考慮した後の利益」
を見るために、税引後営業利益を使います。
また、営業利益には通常、支払利息などの金融費用は含まれていません。
これはROICの考え方と関係しています。
ROICは、株主から調達した資金だけでなく、銀行などから調達した資金も含めて、企業が事業活動に使った資本全体に対するリターンを見る指標だからです。
そのため、資金の調達方法によって変わる支払利息などを控除する前の営業利益をベースに考えます。
投下資本とは何か
次に、ROICの分母に当たる「投下資本」を見てみましょう。
今回の記事では、
投下資本 = 有利子負債 + 自己資本
として考えます。
つまり、
- 株主から調達した資金
- 銀行などから借り入れた資金
を合わせたものです。
企業は、株主からの出資だけで事業を行っているわけではありません。
例えば、
- 銀行から100億円を借りる
- 株主から100億円を調達する
ことで、合計200億円の資金を事業に投じることもあります。
ROICでは、このように事業に投下した資本全体に対して、どれだけのリターンを生み出したかを考えます。
ROICの計算例
例えば、次のような企業があるとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業利益 | 20億円 |
| 実効税率 | 30% |
| 有利子負債 | 100億円 |
| 自己資本 | 100億円 |
まず、税引後営業利益を計算します。
税引後営業利益=20億円×(1-30%)=14億円
次に、投下資本を計算します。
投下資本=100億円+100億円=200億円
したがって、ROICは、
ROIC=14億円÷200億円×100=7%
となります。
つまり、この企業は、事業活動に投下した200億円の資本に対して、7%のリターンを生み出していると考えられます。
ROEとROICは何が違うのか
ROICと似た指標に、ROE(自己資本利益率)があります。
どちらも、「調達した資金に対して、どれだけ利益を生み出したか」を見る指標ですが、以下の2点に違いがあります。
分子となる利益
ROICの分子が税引後営業利益なのに対し、ROEでは一般的に当期純利益が使われます。
ROICは、事業活動によってどれだけのリターンを生み出したのかを見るのに対し、ROEは、株主から調達した自己資本を使って、最終的にどれだけの利益を生み出したのかを見る指標です。
そのため、ROICでは本業の利益をベースとした税引後営業利益を、ROEでは株主に帰属する最終的な利益である当期純利益を使います。
分母となる資本
ROICの分母が「自己資本+有利子負債」なのに対し、ROEでは自己資本が使われます。
前述のとおり、ROICでは、他人資本を含めたトータルの投下資本に対するリターンを示しますが、ROEはあくまで自己資本に対するリターンを示します。
これも事業全体の目線か、株主目線かの違いによるもので、ROEは、「株主から預かった資本を使って、どれだけ利益を生み出したか」に着目した指標のため、分母が自己資本のみとなっています。
ROEについては、こちらの記事で解説しています。
→ROE(自己資本利益率)とは?|企業の「資本効率」を読み解く重要指標
ROEが高くてもROICが高いとは限らない
ROEとROICは、資本に対するリターンを示す点は同じことから、この2つの指標には相関性があることが多いです。
ただし、ROEは自己資本だけを分母にするため、自社株買いによって自己資本が減少したり、有利子負債を増やしたりすることで、ROEが上昇する場合があります。
これを財務レバレッジといいます。
しかし、借入金を含めた事業に投下している資本全体からどれだけ利益を生み出しているかを見ると、必ずしもROICが高いとは限りません。
このように、ROEだけでは分からない「事業そのものの資本効率」を見るためにROICを使うことができます。
財務レバレッジについては、こちらの記事のなかで解説しています。
→ROE(自己資本利益率)とは?|企業の「資本効率」を読み解く重要指標
ROICとWACCを比較する
ROICを理解すると、前回の記事で解説したWACCとの関係も見えてきます。
WACCは、企業が資金を調達するために負担する平均的なコストでした。
一方、ROICは、調達した資金を事業に投下して、どれだけのリターンを生み出したかを表します。
そのため、
ROIC > WACC
となっている企業は、企業が投下した資本から生み出すリターンが、その資本を調達するためのコストを上回っている状態と考えられます。
一般に、ROICがWACCを継続的に上回る企業は、資本コストを上回る価値を生み出していると考えられます。
反対に、
ROIC < WACC
であれば、投下した資本に対するリターンが資本コストを下回っている状態です。
例えば、
- ROIC:10%
- WACC:6%
であれば、資本コストを上回るリターンを生み出しています。
一方、
- ROIC:4%
- WACC:6%
であれば、資本コストを下回っています。
このように、ROICとWACCを比較することで、企業が資本コストを上回る収益性を確保できているかを見ることができます。
WACCについては、こちらの記事で解説しています。
→WACC(加重平均資本コスト)とは?|計算方法とDCF法での使い方をわかりやすく解説
ROICを見るときのポイント
ROICを見るときには、単純に「ROICが高いか低いか」だけを見るのではなく、いくつかの視点が重要です。
同業他社と比較する
業種によって必要な設備や運転資金などが異なるため、ROICの水準も変わります。
そのため、同じ業界の企業と比較することで、その企業の資本効率が高いのか低いのかを判断しやすくなります。
過去と比較する
ROICが過去と比べて上昇しているのか、低下しているのかを見ることも重要です。
ROICが上昇しているのであれば、利益を増やしたり、投下資本を効率化したりすることで、資本効率が改善している可能性があります。
WACCと比較する
ROICとWACCを比較することで、
「企業が資本コストを上回るリターンを生み出しているか」
を見ることができます。
ROICが高ければ必ず良い企業なのか
ROICは、一般に比率が高いほど効率よく収益をあげているといえますが、ROICが高いからといって、必ずしも企業として優れているとは限りません。
例えば、事業を縮小した結果、投下資本が小さくなってROICが上昇するケースもあります。
そのため、
- 売上高
- 営業利益
- キャッシュフロー
- ROE
- WACC
などを組み合わせて、企業の収益性や資本効率を分析することが重要です。
ROICは単独で判断するのではなく、他の指標と組み合わせて見ることが大切です。
まとめ|ROICは「投下した資本をどれだけ効率よく使ったか」を見る指標
今回のポイントをまとめると、次のとおりです。
- ROICは、投下した資本に対してどれだけのリターンを生み出したかを示す指標
- ROICは「税引後営業利益÷(有利子負債+自己資本)」で計算する
- ROEは株主資本に対するリターン、ROICは株主資本と有利子負債を含めた投下資本に対するリターンを見る
- ROICとWACCを比較することで、資本コストを上回るリターンを生み出しているかを確認できる
- ROICは同業他社や過去の数値と比較することも重要
ROICは、単に「利益がどれだけ大きいか」ではなく、「企業が調達した資本を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」を見る指標です。
前回解説したWACCと組み合わせて見ることで、「どれだけのコストで資金を調達し、その資金からどれだけのリターンを生み出しているのか」という、企業の資本効率をより深く分析できるようになります。
※本記事は企業分析の考え方を一般的に解説するものであり、特定企業への投資判断や取引を推奨するものではありません。実際の判断にあたっては、必ず最新の公式資料をご確認ください。


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